【事例紹介】パワハラリスクをどう防ぐか?大手自動車部品メーカーにおける組織風土改善

クライアント:自動車部品メーカーC社
※クライアント企業や個人の特定を避けるため、事例の本質を損なわない範囲で一部の情報を変更・加工して記載しています。
導入前の状況
「お前らのミス一つで、ラインが止まるんだぞ!なぜこんな初歩的なポカをやるんだ!」
国内有数の規模を誇る大手自動車部品メーカー、C社の製造フロア。
機械の稼働音が響く中、H製造課長の怒声が響いていました。
EV化の波が押し寄せ、部品のモジュール化や極限の軽量化が求められる昨今、製造現場のQCD(品質・コスト・納期)に対するプレッシャーはかつてないほど高まっています。
H課長は、その重圧を一身に背負うベテラン管理職でした。彼の頭にあるのは「絶対に不良を出さない」「タクトタイムを遅らせない」という強い責任感。しかし、その「正義」は、いつしか強い口調や威圧的な態度となってメンバーへ向けられるようになっていました。
現場の空気は冷え切り、メンバーは常にH課長の顔色を窺う状態に。ミスを報告すれば激しく叱責されるため、不具合の報告は遅れがちになります。その結果、さらにH課長の雷が落ちるという悪循環に陥っていました。そしてついに、事態は最悪の結末を迎えます。H課に配属された若手・中堅メンバーが相次いでメンタル不調を訴え、わずか半年で2名が退職、1名が休職に追い込まれていました。
ご依頼の背景
事態を重く見た製造部長は、すぐさまH課長を会議室に呼び出しました。
「Hさん、君の厳しさは分かるが、少し言い方を考えないと人がついてこないぞ」
しかし、H課長の口から出たのは、思いもよらない猛反発でした。
「部長、彼らを甘やかして歩留まりが落ちてもいいんですか?私は会社のために指導しているだけです。最近の若者はやる気と根性が足りないんです!」
部長は頭を抱えました。H課長は決して私情で怒っているわけではなく、むしろ、高い技術力と会社への忠誠心を持っています。ここで上司である自分が「パワハラだ」と力で押さえつければ、H課長は「上層部は現場の苦労も知らずに綺麗事ばかり言う」と心を閉ざし、最悪の場合は彼自身を失うリスクがありました。
社内の人間が介入すると、事態はさらにこじれるかも知れないと判断した製造部長は、当社に相談しました。
当社のアプローチ
当社はまず、個人の資質を責めるのではなく、組織の構造的なエラーを紐解くことから始めました。最初に行ったのは、対象チーム全体の「組織風土診断」です。集まったデータには「上司に意見を言えない」傾向が顕著に見られました。
この結果をもとに、当社はH課長との1on1ミーティング(月1回・計6回)をスタートさせました。
当初、H課長は腕を組み、「コンサルが現場の何を分かっているんだ」と警戒心を露わにしていました。しかし、私たちは彼のマネジメントを一切否定しませんでした。
「H課長の『品質を絶対に守り抜く』という想いの強さは、素晴らしいプロ意識ですね。でも、その熱意がメンバーに『恐怖』として伝わってしまっているのは、H課長にとっても本意ではないのではありませんか?」と粘り強く対話を続けるうちに、彼はポツリと、「本当は、みんなで協力していいモノを作りたいだけなんです。でも、余裕がなくて…」と本音をこぼしたのです。
そこからパラダイムシフトが起きました。「パワハラリスクの是正」ではなく、「H課長の想いを実現するための、よりよいチームづくり」へと1on1の目的を再定義したのです。
毎月の1on1では、「メンバーの話を遮らずに最後まで聴く」「『なぜやったんだ』ではなく『どうすれば防げたか』を一緒に考える」といった具体的な対話のトレーニングを実施。第三者という安全な壁打ち相手を得たことで、H課長自身が自らの行動パターンを内省し、新しいマネジメントスタイルを獲得していきました。
成果
半年後、H課の風景は大きく変わっていました。H課長の物腰はソフトになり、感情的に怒鳴る姿は完全に消えました。かつての面談ではH課長が9割近く一方的に話していましたが、今では半分ずつの割合でメンバーの意見を引き出せるようになりました。最も大きな変化は、メンバーからH課長への相談頻度です。「怒られるから隠す」から「一緒に解決してもらうために相談する」という安心感が生まれ、週に1回ペースだった相談が、毎日のように行われるようになりました。
この「関係性の改善」は、単なる職場の雰囲気向上にとどまりません。明確な財務インパクトをもたらしました。日常的な相談が増えたことで、設備の小さな異音や品質のバラツキといった「異常のシグナル」が早期に発見されるようになり、重大なライン停止(ダウンタイム)や不良品の廃棄ロスが激減。さらに、休職者・退職者の発生にストップがかかったことで、一人当たり数百万円かかるとされる採用・育成コストの流出を防ぐことができました。
まとめ
真面目で優秀な管理職ほど、責任感の強さゆえにパワハラリスクが高まる傾向があります。
管理職当事者およびメンバーが健全にパフォーマンスを発揮できるよう、組織の関係性を見直す客観的なアプローチをご検討しませんか。
現状の課題を整理する無料ディスカッションも承っております。
