【事例紹介】部門トップの連携強化で新製品リリースのリードタイムを50%短縮

※クライアント企業や個人の特定を避けるため、事例の本質を損なわない範囲で一部の情報を変更・加工して記載しています。
はじめに
企業の競争力を左右する新製品開発において、革新のスピードを求める「開発部門」と、安定と確実性を求める「製造部門」の構造的な対立は、多くのメーカーが直面する経営課題です。
本記事では、大手化学メーカーA社の事例を紐解き、部門トップ間の硬直化した対立構造を、当社コンサルタントのアプローチによって、どのように「全体最適」へと転換し、新製品の市場投入スピードを加速させたのか、その実践的なプロセスをご紹介します。
直面していた課題
A社では、次世代向け高機能樹脂の開発において、新製品の市場投入が競合他社より半年遅延するという経営課題に直面していました。化学業界における数ヶ月の遅延は、「顧客に採用決定いただく機会」の喪失を意味し、向こう数年間の取引を失うことになります。このボトルネックとなっていたのが、試作品を量産化する「スケールアップ」の工程であり、会議室では連日、相反するミッションを持つ両部門のトップが対立していました。
- 技術開発部長
市場ニーズとスピードを重視:
「研究室のテストでは、要求スペックは完全にクリアしている。なぜ実機ラインで再現性が担保できないのか。このままでは顧客の採用期限に間に合わず、甚大な機会損失になる。」 - 製造部長
安全と安定を重視:
「ビーカーと数トン規模の工場タンクでは、攪拌効率も熱の伝わり方も全く違う。安全検証も不十分なまま既存の生産ラインに無理やり流せば、歩留まりの悪化どころか事故に繋がる。」
部門トップ同士が「自部門の主張」を譲らず平行線を辿る中、その影響は現場に押し寄せ、実務を担う若手エンジニアたちのモチベーションが低下し、ぽつぽつと退職が相次いでいる状況でした。
当社への依頼背景
この状況に強い危機感を抱いていたのが、両部門を統括する取締役でした。最初は取締役自身が間に入って調整を試みましたが、互いの主張は平行線を辿り、改善しませんでした。「これ以上、社内の人間が介入してどちらかに肩入れするような形になれば、かえって関係性がこじれてしまう」と自助努力の限界を感じていました。
そこで、「自分が介入して説得するよりも、第三者である専門家に依頼し、客観的な視点から関係性を解きほぐしてもらった方が効果的ではないか」と判断し、当社にご依頼いただく形になりました。
解決へのアプローチ
キーマン連携強化の標準ステップを解説します。キーマン2名に当社コンサルタントが伴走する「3者対話」を軸に、率直な議論と合意形成を促進します。コンサルタントが介入することで、対象者のパーソナリティーに寄り添いながら、客観的で新たな気づきを提供します。具体的なプログラム内容は、毎月の「3者対話」と「個別フォロー面談」にて構成されています。
【事前準備】対象者のパーソナリティー診断と現状整理
対象者のパーソナリティーに寄り添って支援するために、事前準備としてエゴグラムテストを受診いただきました。エゴグラムテストは世界的に企業や医療機関で利用されている心理テストです。そのうえで、対象者に個別にヒアリングを行い、現状を整理しました。
【1ヵ月目】課題感の共有と両者最適視点の提示
「3者対話」をスタートしました。最初は腕組みをして目を合わせない両者に対し、「お二人は”会社の競争力を高めたい”という目的は同じですが、それぞれの部署最適を重視するあまり、全体最適を見失っている可能性はありませんか?」と全体最適の視点を促しました。
【2ヵ月目】感情とニーズの深掘り
個別フォローの面談を挟みながら対話を重ねる中で、コンサルタントが「お互いの核心」に切り込みました。その時、技術開発部長から「今回のスペックインを逃せば、会社の屋台骨を支える次世代の売上が消失してしまう」という経営的視点での焦りが共有されました。一方、製造部長からは「人員不足で既存製品の納期に追われる中、失敗の許されない新規テストを強行すれば、現場が崩壊してしまう」という切実な危機感が共有されました。
【3ヵ月目】アクションプランの合意
お互いの真意が共感し合えた時、空気が一変しました。「製造現場の安全基準を担保し、既存ラインを止めずに新製品リリースのリードタイムを削るにはどうすべきか?」という、前向きな議論へと焦点が切り替わりました。結果として、「開発の初期段階から製造部のエンジニアが入り、量産時の条件をあらかじめ見越した配合設計を行う」という画期的なアクションプランで合意に至りました。
導出した成果
部門間の連携がスムーズになったことで、試作の手戻りが激減し、スケールアップのテストから量産化までの開発リードタイムが半分に短縮される成果を生み出しました。現場の若手エンジニアも委縮せずに意見を出せる心理的安全性が生まれ、若手エンジニアの離職が止まりました。
おわりに
A社の事例のように、部門間の対立はそれぞれの役割や目標が異なるために起こります。それに伴い評価も決まるため、当事者同士では、自部門を正当化する力学が働き、全社視点による客観的な対話へと発展しづらい構造があります。 この状況を打開するためには、特定の利害を持たない第三者が介入し、フラットな視点から相互理解を促すことが効果的です。
