「お金がないのに、なぜ食器を買うの?」ある夫婦関係から学んだ、上司の一番大切な仕事

私は、夫婦関係のご相談を受けることが、けっこうあります。
企業経営の話だけでなく、家庭のお話も。
先日、ある旦那さんから、こんなご相談をいただきました。
「妻が、いつも『お金がない』と言うんです。家計が毎月、マイナスらしくて」
今日は、その話から、少しお付き合いください。
旦那さんは、心配されて、何度も奥さんに言ったそうです。
「何に使ってるか、分析したら?」
でも、奥さんは、こう返すんだそうです。
「やっても、分からないの!」
そう言って、話を、避ける。
ところが、その一方で。
家には、新しい食器が、増えていくんだそうです。
ある日、旦那さんは、我慢できずに、こう言ってしまいました。
「お金がないのに、なんで食器を買うの?」
その日、奥さんは、一言も、口をきいてくれなかったそうです。
「お金がないのに、なぜ買うの?」
この言葉は、論理的には、何一つ間違っていません。100%、正しい。
でも、奥さんは、心を閉じてしまった。
私たちは、よく正しいことを言って、相手を追い詰めてしまいます。
私自身、何度もやってきました。今でも、やっています。
その旦那さんに、私は、こうお伝えしました。
「次に、新しいお皿が増えていたら、こう言ってみてください。お、いい皿だね、と」
旦那さんは、戸惑っておられました。
「いや……それじゃ、買い物を、認めることになりませんか」
「ええ、認めるんです。奥さんの行動を、まず認めるんです」
半信半疑で、旦那さんは、試してみたそうです。
次に、新しいお皿が増えた日。旦那さんは、こう言いました。
「お、これ、いい皿だね」
奥さんは、ちょっと驚いた顔をされて、こう言ったそうです。
「……ストレスが溜まると、つい、買っちゃうの」
「仕事と家事に追われて、自分のために何かする時間が、ぜんぜんないの」
「お皿を買ってるときだけ、自分のために何かしてる気がするの」
奥さんは、サボっていたわけじゃ、ないんですね。
計画性がない、わけでもなかった。
奥さんは、ただ、自分を労ってほしかったんです。
「お金がない」と「食器を買う」。
一見、矛盾しています。でも、私には、両方とも、同じ言葉に聞こえます。
「私のことを、見てください」って。
その後、旦那さんは、家事を少し多めに引き受けるようになったそうです。
週末に、奥さんがひとりで過ごせる時間を作るようにした。
それから、お皿が増えることは、なくなったそうです。
私は、この話を伺って、深く考えさせられました。
「分析しろ」と、何度言っても、変わらなかった。
でも、「いい皿だね」の、たった一言で、奥さんが口を開いた。
なぜだと思われますか?
私はね、こう思うんです。
人は、自分のことを理解しようとしてくれていると感じたとき、初めて、心を開くんです。
「分析しろ」は、奥さんを見ていない。家計の数字を見ている。
「いい皿だね」は、奥さんが選んだものを見ている。奥さんを見ている。
違いは、それだけなんです。
でも、その違いが、すべてなんですね。
ここで、一つ、ご一緒に考えていただきたいことがあります。
例えば、あなたの職場には、こんなメンバーは、いらっしゃいませんか。
- 「忙しい、忙しい」と言いながら、新しい仕事を抱え込むメンバー
- 「成果を出したい」と言いながら、本を読まないし、上司に教えを求めない若手
- 「もっと自由にやらせてほしい」と言いながら、与えた裁量を使わないベテラン
矛盾している、と思われますか。
私は、思わないんです。
その人なりの、理由が、必ずあるんです。
本人も、まだ、言葉にできていない何かが。
評価面談などで、メンバーに「矛盾している」と感じる瞬間が、あるかもしれません。
その時、ちょっとだけ立ち止まっていただけたら、と思うんです。
「このメンバーは、本当は、何を、求めているんだろう」
その問いを、心の中に置けるかどうか。
私は、それが、上司の一番大切な仕事じゃないか、と思っているんです。
もし、明日からの職場で、すぐにできることがあるとしたら。
どこかで一度、「お、いい皿だね」と、言ってみていただけたら、嬉しいです。
相手の選んだもの、相手のしていること、相手そのものを、まず認める。
それだけで、関係は、少しずつ、変わり始めます。
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