【事例紹介】新卒の離職率が50%から10%に改善。上司部下の関係性強化アプローチ

【事例紹介】新卒の離職率が50%から10%に改善。上司部下の関係性強化アプローチ

※クライアント企業や個人の特定を避けるため、事例の本質を損なわない範囲で一部の情報を変更・加工して記載しています。

はじめに

本記事では、情報通信サービス会社T社において、新卒の離職率が50%から10%に改善した取り組み事例をご紹介します。

  • 【情報通信サービス会社T社の概要】
    • 事業内容: モバイル通信ソリューションの提供
    • 従業員数: 約250名
    • 採用状況: 毎年10名前後の新卒を採用
    • 課題:新卒の入社 1年以内の離職率が50%前後

直面していた課題

T社では毎年10名前後の新卒を採用していましたが、その約半数が1年以内に離職していました。この状況は、直近の3年間続いていました。

人事責任者のSさんは、主な離職原因が「上司と部下の関係性」にあると分析しました。その解決策として、新入社員には「主体性を育む研修」を、管理職には部下の主体性を支援する「コーチング研修」をそれぞれ企画し、双方からのアプローチによる改善を図りました。

研修直後には、新卒も管理職もそれぞれに有益な気づきを得られた様子でしたが、離職防止には効果がありませんでした。人事に告げられる退職理由は「次にやりたい事が見つかったので辞めます。」という前向きな理由が多く、離職防止の手がかりが掴めずにいました。

そのような折、Sさんは当社主催の「離職率改善セミナー」に参加し、無料相談を経て、離職防止を目的とした組織開発コンサルティングを申し込みました。

離職防止へのアプローチ

離職防止の取り組みは以下のステップで進めました。まずは組織風土診断によって、メンバーの関係性を見える化し、離職要因を考察しました。次に組織の実情を把握するために、気になる数名に絞ってヒアリング調査を実施。これらを材料に離職要因を掘り下げて分析し打ち手を提案しました。今回は「上司と部下のコミュニケーション不足」が主な離職要因の一つでしたので、上司と部下を交えた合同研修を実施して、お互いの相互理解を深めました。その後、1on1面談を数ヵ月継続して、研修での気づきを定着させました。

離職防止へのアプローチ

STEP1 組織風土診断

もっとも離職率が高かった営業部から改善に取り組むことにしました。営業部は総勢12名で、内訳は部長1名、課長2名、営業担当6名、新卒3名という構成です。組織風土診断では、各メンバーの性格特性を診断し、その結果を組織図上にマッピングすることで、メンバー間の価値観やコミュニケーション特性を可視化します。

  • 【営業部の特徴】
    • 部長は、目標達成へのコミットメントが非常に強く、意欲が十分でないと感じる部下に対しては厳しい姿勢で接する傾向がある。そのため、ネガティブな情報や課題が上がりにくい状況が生じている
    • 課長は、業務を合理的かつ効率的に進める力に長けている一方で、非効率な対応や予定変更にストレスを感じやすい傾向がある
    • 営業担当や新卒層は、自己主張を控える傾向があり、業務を抱え込みやすく、結果としてオーバーワークに陥りやすい
  • 【離職要因の仮説】
    • 部長は目標達成への責任感が非常に強く、期待水準の高さから、メンバーの向上心が不足しているように映り、結果として厳しい態度で接する場面が多くなっている。一方で、メンバーは指摘を避けたい思いから、部長との接触を控える傾向がある。課長はメンバーからの相談には丁寧に応じているものの、自ら積極的に声をかける機会は多くない。現場で起きている事象やメンバーの心情がマネジメント層に十分に共有されず、組織の実態を把握していないことが、離職の一因となっている可能性が高い。
■組織風土診断のアウトプットイメージ
組織風土診断のアウトプットイメージ

STEP2 ヒアリング調査

組織風土診断は、地図のように、現状をシンプルに可視化するものですが、それ自体が現実そのものを表すわけではありません。そこで、診断から得られた仮説を検証するとともに、診断だけでは捉えきれない要素を把握するため、ヒアリング調査を実施しました。

STEP3 離職要因の分析と打ち手の検討

ヒアリング調査で得られた情報をもとに、離職要因について「なぜなぜ分析」を行い、真因の特定と打ち手の導出を行いました。多岐にわたる離職要因を網羅的に提示したうえで、当社が担う組織開発領域について伴走支援を実施しました。

■要因分析のアウトプットイメージ
要因分析のアウトプットイメージ

STEP4 上司部下の合同研修

営業部メンバー全員参加で半日間の研修を実施しました。メンバーの相互理解を促進するために上司と部下が合同で実施することが必要です。

  • 【プログラム概要】
    • 組織風土診断やヒアリング調査による分析結果のフィードバック
    • 各メンバーの性格傾向やコミュニケーション特性を共有し合うワークを実施
    • 互いに望ましい関わり方や配慮してほしい点を伝え合うワークを実施
  • 【参加者の気づき】
    • メンバーの主体性が十分に発揮されていない背景には、失敗への恐れがあると気づいた。今後は、失敗を責めるのではなく、挑戦を歓迎する関わり方を意識したい
    • 業務指示を無意識に端折って伝えていたことで、メンバーが十分に理解できていない場面が多くあったと認識した。今後は、よりかみ砕いて丁寧に説明するようにしたい
    • これまで部長に対して怖い印象を持っていたが、実際には責任感が強く、相手を思いやる人だと気づいた。研修前に比べて、以前より話しかけやすくなった

STEP5 気づきの行動定着

研修をきっかけに関係性は改善しましたが、それだけでは時間の経過とともに元の状態に戻ってしまいます。そこで、研修で得た気づきを具体的な行動として定着させるため、5名を選抜し、1on1面談を実施しました。

  • 【1on1の内容】
    • 日常業務における課題や悩みのヒアリング
    • 課題や悩みの背景にある本質的なニーズの深掘り
    • 今後のアクションプランのすり合わせ
  • 【参加者の気づき】
    • 失敗をつい咎めてしまう姿勢をなかなか改善できずにいたが、その背景に、自分の価値観や基準と相手を比較してしまっていることがあると気づいた。今後は、相手を自分とは異なる一人の人格として認識し、尊重して関わるようにしたい
    • 意思疎通が難しいメンバーへの対応に悩んでいたが、振り返ってみると、自分の伝え方に具体性が不足していたことに気づいた。今後は、相手が理解しやすいよう、より具体的に伝えることを意識したい
    • 上司やお客様からの依頼を断れず、抱え込みすぎてパニックになっていたが、適切な断り方を学んだことで、気持ちが楽になった

導出した成果

  1. 新卒の離職率の改善
    入社1年以内の離職率が50%から10%へと改善しました。
  2. 新卒の自律的成長による早期戦力化
    これまで指示待ちになりがちだった新卒社員が、「自分ならこう考えますが、どうでしょうか?」と自らの意思で提案・行動する状態へと変容しました。上司側もそれを頭ごなしに否定せず、共に最適解を探る「パートナー」としての関係性が構築されました。結果として、現場での自律的な成長サイクルが回り始め、目に見えて業務への定着と戦力化が加速しました。
  3. 年間約1,200万円のサンクコスト(埋没費用)削減
    1人あたりの採用単価(約100万円)と1年間の育成コスト(約200万円)を仮定した場合、毎年の離職者が5名から1名に減ったことで、年間約1,200万円規模の無駄なコストの流出がストップしました。

おわりに

新卒の早期離職には多岐にわたる要因がありますが、主な要因の一つに「人間関係」があります。自分のことを理解し応援してくれる上司や同僚の存在があれば、苦しい時期や困難を乗り越えていけます。昨今ではパワハラリスクを回避しようと、職場では表面的なコミュニケーションが目立っています。十分な指導をしていない中で、「部下が言うこと聞かない」、「部下が育たない」と悩まれている管理職の方々が多いと感じます。パワハラは受け手の感じ方次第ですので、信頼関係があればハラスメントは起こりません。本記事が、離職課題を抱えていらっしゃる方々の参考になれば幸いです。

参考資料
2025年新卒の早期離職レポート
〜入社半年以内の退職者38名へのヒアリングからの考察〜
今すぐダウンロード
佐藤大介写真
執筆者
株式会社エンディングキャリア
代表取締役 佐藤大介
  • 1979年生まれ、青森市出身、川崎市在住
  • 高校卒業後、航空自衛隊に入隊。その後、就職氷河期の中で転職しながらキャリアを形成。大手から中小企業まで多様な業種での経験が強み
  • 事業責任者および人事責任者として、人材育成・組織開発領域に20年従事
  • 現在は、組織開発コンサルタントとして、企業の持続的な成長を支援
  • 多摩大学大学院修了、キャリアコンサルタント