【事例紹介】パワハラリスクをどう防ぐか?大手自動車部品メーカーにおける組織風土改善

【事例紹介】パワハラリスクをどう防ぐか?大手自動車部品メーカーにおける組織風土改善

※クライアント企業や個人の特定を避けるため、事例の本質を損なわない範囲で一部の情報を変更・加工して記載しています。

はじめに

本記事では、大手自動車部品メーカーC社において「管理職のパワハラリスク」を解決した組織風土改善の事例を解説します。

パワハラリスクを「個人のモラル問題」として処理するのではなく、プレッシャーを生み出す構造にアプローチすることで、パワハラの予防と財務効果の創出を同時に実現した事例です。

  • 【大手自動車部品メーカーC社の概要】
    • 業種: 自動車部品の製造・販売
    • 従業員数: 約800名
    • 事業環境: 業界全体のEVシフトに伴い、既存製品のさらなる生産性向上と、次世代対応へのプレッシャーが同時に現場へ押し寄せている。
    • 組織課題: 業績目標とコンプライアンスの板挟みになり、真面目で責任感の強いミドルマネジメント層が孤立。過度なプレッシャーからパワハラ的な言動が増え、生産の歩留まり悪化やメンバーのモチベーション低下を招いていた。

直面していた課題

「お前らのミス一つで、ラインが止まるんだぞ!なぜこんな初歩的なポカをやるんだ!」大手自動車部品メーカーC社の製造現場に、製造部H課長の怒声が響いていました。

EV化の波が押し寄せ、部品のモジュール化や極限の軽量化が求められる昨今、製造現場のQCD(品質・コスト・納期)に対するプレッシャーはかつてないほどに高まっていました。

H課長は、その重圧を一身に背負うベテラン管理職でした。彼の頭にあるのは「絶対に不良品を出さない」「納期を遅らせない」という強い責任感。しかし、その「正義」は、いつしか強い口調や威圧的な態度となってメンバーへ向けられるようになっていました。

現場の空気は冷え切り、メンバーは常にH課長の顔色をうかがう状態に。ミスを報告すれば激しく叱責されるため、不具合の報告は遅れがちになります。その結果、さらにH課長が𠮟責するという悪循環に陥っていました。ついには、H課に配属された若手・中堅メンバーが相次いでメンタル不調を訴え、半年間で2名が退職、1名が休職に追い込まれていました。

当社への依頼背景

事態を重く見た製造部長は、すぐさまH課長を会議室に呼び出しました。
「Hさん、君の厳しさは分かるが、少し言い方を考えないと人がついてこないぞ」

しかし、H課長の口から出たのは、思いもよらない反発でした。
「部長、彼らを甘やかして歩留まりが落ちてもいいんですか?私は会社のために指導しているだけです。最近の若者はやる気と根性が足りないんです!」

部長は頭を抱えました。H課長は決して私情で怒っているわけではなく、むしろ、高い技術力と会社への忠誠心を持っています。ここで上司である自分が「パワハラだ」と力で押さえつければ、H課長は「上層部は現場の苦労も知らずに綺麗事ばかり言う」と心を閉ざし、最悪の場合は彼自身を失うリスクがありました。

社内の人間が介入すると、事態はさらにこじれるかも知れないと判断した製造部長は、当社に相談しました。

解決に向けたアプローチ

当社はまず組織で何が起きているのかを客観的に「観察」することから始めました。最初に行ったのは、H課全体の「組織風土診断」です。診断の結果から、「メンバーが上司に率直な意見を伝えることに難しさを感じている」という現状が見えてきました。

この事実をもとに、H課長との1on1ミーティング(月1回・計6回)をスタートさせました。当初、H課長は腕を組み、「コンサルが現場の何を分かっているんだ」と不満の言葉を口にしていました。しかし、私たちは、その言葉を「抵抗」として片づけず、彼の奥にある「感情」と「価値観」に耳を傾けました。

「これほど厳しい現場の状況が理解されないまま、結果だけを求められるとしたら、やりきれないお気持ちにもなりますよね。H課長が何よりも大切にされてきたのは、品質に対して一切妥協しない姿勢と、それを支える現場への正当な評価だったのではないでしょうか。」

このように、共感的な問いかけを粘り強く続けるうちに、彼はポツリと、「本当は、みんなで協力していいモノを作りたいだけなんです。でも、日々のプレッシャーの中で余裕がなくて、とても苦しいんです」と、自身の本音をこぼしました。

ここが大きな転換点となりました。1on1の目的を、H課長の「質の高い仕事をチームで成し遂げたい」という熱意を活かしつつ、メンバーが安心して働ける環境をどう両立させるかという前向きなテーマへと再定義したのです。以降の毎月の1on1では、日常のマネジメントで使える具体的なコミュニケーションとして、以下の実践トレーニングを行いました。

評価せずに事実を伝える:
「いつもミスばかりだな」と評価するのではなく、「今週、同じミスが2回あったね」と事実を客観的に伝える。

背景にある本音を聴く:
「なぜやったんだ」と責めるのではなく、「今、どんなことに困っている?」から対話を始め、まずは相手の言い分を理解する姿勢を示す。

命令ではなく提案する:
「〇〇しろ」と一方的に指示するのではなく、「〇〇してもらえると助かるのだけど、どうだろうか?」と、相手の主体性を引き出す伝え方をする。

当社コンサルタントとの対話を重ねる中で、H課長自身も、自分が抱えていた過度なプレッシャーや焦りを客観視できるようになっていきました。自らの心に余裕を取り戻したことで、結果的にメンバーの悩みや状況にも自然と寄り添えるようになり、チーム全体を巻き込む新しいマネジメントスタイルを獲得していきました。

創出した成果

半年後、H課の風景は大きく変わっていました。H課長の物腰はソフトになり、感情的に怒鳴る姿は完全に消えました。かつては部下との1on1面談にてH課長が9割近く話していましたが、今では半分ずつの割合でメンバーの意見を引き出せるようになりました。最も大きな変化は、メンバーからH課長への相談頻度です。「怒られるから隠す」から「一緒に解決してもらうために相談する」という安心感が生まれ、週に1回ペースだった相談が、毎日のように行われるようになりました。

この「関係性の改善」は、単なる職場の雰囲気向上にとどまりません。明確な財務インパクトをもたらしました。日常的な相談が増えたことで、設備の小さな異音や品質のバラツキといった「異常のシグナル」が早期に発見されるようになり、重大なライン停止(ダウンタイム)や不良品の廃棄ロスが激減。さらに、休職者・退職者の発生にストップがかかったことで、一人当たり数百万円かかるとされる採用・育成コストの流出を防ぐことができました。

おわりに

真面目で責任感の強い優秀な管理職ほど、業績とコンプライアンスの板挟みになり、孤立の中でパワハラリスクを抱えがちです。彼らを「問題のある加害者」として評価するのではなく、その熱意を本来の組織の推進力へと転換するには、個人の性格や資質に依存しない「関係性のシステム」を根本から見直す必要があります。

一般的なハラスメント研修だけでは解決しきれない組織の構造的な課題について、まずは第三者の客観的な視点から整理してみませんか。無料のディスカッション(壁打ち)を随時承っております。

管理職配布用
指導とパワハラの境界線チェックリスト
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佐藤大介写真
執筆者
株式会社エンディングキャリア
代表取締役 佐藤大介
  • 1979年生まれ、青森市出身、川崎市在住
  • 高校卒業後、航空自衛隊に入隊。その後、就職氷河期の中で転職しながらキャリアを形成。大手から中小企業まで多様な業種での経験が強み
  • 事業責任者および人事責任者として、人材育成・組織開発領域に20年従事
  • 現在は、組織開発コンサルタントとして、企業の持続的な成長を支援
  • 多摩大学大学院修了、キャリアコンサルタント