組織風土コンサルティング課題解決事例

ご依頼内容

医薬品メーカーの品質管理部におけるパワハラ改善の事例をご紹介いたします。

当初、同社の品質管理部長よりご相談いただいた内容は、「A課長のメンバーで直近1年間に2名の離職者が出ている。主な原因はA課長の言葉や態度がきついことにあると思っているが、どのように改善を促していいのか分からない。御社で何か対策できないか」ということでした。

原因調査「組織風土診断」

この問題を解決するためには、「なぜ、A課長の言葉や態度がきつくなってしまうのか」原因を調査することが先決です。それにはA課長個人の問題だけではなく、メンバーとの対人関係についても調査が必要なため、チーム全体の「組織風土診断」を実施しました。

組織風土診断では、一人ずつの性格テストを実施して、それを組織図に当てはめて関係性を分析します。 今回用いる性格テストはエゴグラムテストといいまして、主に心療内科の治療に使用されているものです。対人関係の長所や短所が表れやすい特徴があります。

調査結果から見える「組織の特徴や起こりそうな問題」

長所と短所で整理すると、このように表すことができます。

長所と短所

A課長は、完璧を目指し細部にこだわって質の高い仕事をするタイプです。物事を批判的に捉えるので問題点が目に留まりやすく品質管理の業務で高いパフォーマンスを発揮しているでしょう。しかしながら、人に対しても批判的になってしまう点が問題です。合理性も高いので、まとまりのない話し方にイライラしやすく「何がいいたいの?」と詰めてしまいがちです。

メンバーのほうですが、パワハラを感じやすい傾向があるCさんとEさんに限定して、 それぞれの性格とA課長との関係性を説明します。

Cさんは周囲の期待に応えよう責務を全うしようとして、損得を度外視して、自分の体力以上に頑張ってしまうタイプです。他人に迷惑をかけたくない気持ちが強く、困っていることを言い出せずに抱えてしまう傾向があります。言いたいことを順序立てて伝えることが苦手で、自分の意見があっても飲み込んでしまいます。
このようなCさんが、A課長の目にどのように映っているのかといいますと、Cさんの頑張りは評価していると思います。ただし、論理的に話すことが苦手で、会話をしてもかみ合わないことが多いので、イライラしてしまうでしょう。そこでつい高圧的な態度を出してしまうと、Cさんはますます萎縮して何も言えなくなってしまいます。

つづいてEさんですが、Eさんは柔軟で優しい人づきあいが出来るタイプです。対立を嫌い、みんなとうまくやっていきたい平和主義者です。そのため、基準や目標があっても相手に譲って妥協してしまうことが多く、結果として基準が下がりやすいでしょう。また依頼を断ることが苦手で無理をして仕事を引き受ける傾向があるので、オーバーワークになりやすいでしょう。
このようなEさんをA課長の立場から見ると、優しく協調性がある反面、安易に妥協してしまうので、品質管理としての仕事を放棄しているような印象になるでしょう。何度言っても改善されないときには、指導する言葉がキツくなってしまうことが推測されます。

パワハラの根本原因は、「価値観の違い」にあります。
A課長もメンバーもどちらも悪くありません、考え方や想いが違うだけです。 これをどのように解決すればいいのかと言えば、お互いの価値観について理解を深めて、尊重し合える状態にすることです。そうすればこの問題は解決します。

具体的に、弊社が支援したことが2つあります。

2つの支援内容

① A課長への個別指導
② 1on1面談の伴走支援

支援①「A課長への個別指導」

A課長への個別指導では主に5つのことを伝えました

  • 会社に貢献したい想いが強いのに、1年間で離職者を2名出したことは、想いと矛盾して損失を与える結果になっていること
  • 業務優先で人への関心が薄い傾向があるが、より成果を上げていくためにはメンバーの力が必要であること
  • メンバーがやってくれた事に対して、批判する前にまず「ありがとう」という感謝の気持ちを伝えること
  • 自分とメンバーは別の人間で、生まれも経験もスキルも違うので、自分との比較で指導するのではなく、相手の時間軸で成長を支援すること
  • 1on1面談を活用して相互理解を深めていくこと

普通であれば、外部の人間に言われたくないと反発が起こりそうですが、私はA課長の想いを誰よりも大切にし、A課長の価値観に寄り添って指導しましたので、快く受け入れてくれました。

支援②「1on1面談の伴走支援」

次に、1on1面談の伴走支援でやったことをお話しします。

A課長とメンバーの1on1面談に私も同席して、1on1終了後にA課長にフィードバックすることを実施しました。 A課長とEさんとの1on1面談について、フィードバックした事を3つ紹介します

① 短所を長所に変換する
A課長はEさんが妥協しがちなところを問題だと思っていますが、この短所は、柔軟性があるという長所に変換できます。Eさんが柔軟に折り合いをつけたおかげでスムーズに進んでいる業務があるかも知れません。短所の裏側には必ず長所があるので、自分とは合わない価値観や考え方だったとしても、長所に置き換えて、相手を承認し共感する態度で接しましょう

② 相手が言われてうれしいことを言う
Eさんは評価意識が高く、相手から認められたい気持ちが人一倍強い性格です。 日頃からEさんの仕事ぶりを観察して、良いところを毎月5つは発見しておきましょう。そして、具体的な行動を挙げて、気持ちをこめて賞賛しましょう

③ 想いを傾聴しましょう
会話の内容は、事実と想いから成り立っています。事実は客観的事実であり誰から見てもそう言えることです。事実からはズレが発生しません。一方で想いは価値観、感情、個人の捉え方で変わることであり、人によって異なります。想いを傾聴することで、相手の真意がわかります。例えば、Eさんが妥協する背景には揉め事を起こしたくないという価値観があるので、揉め事を起こさず、かつ、妥協もせずに、調整する方法を教えてあげれば、仕事の精度が高まります。

効果検証

このような形で、個別指導と1on1面談の支援を継続しました。 半年後、A課長やチームにどのような変化が表れたのか、ご紹介します。

  • 経営層やメンバーから見た印象として、A課長の態度がソフトになった
  • うまくいかない時でも言葉や態度がキツくなることが減った
  • これまでの1on1面談ではA課長が9割近く話していたが、いまではメンバーの発信が増えて5:5の割合になった
  • メンバーからA課長へ相談する頻度が増えた。週1回程度の頻度だったが、毎日のように相談が上がるようになった

ちなみに、支援終了時に再度エゴグラムテストを受けていただいたところ、A課長の診断結果はこのように変化しました。CPという批判的な性格が低下し、NPという養育的な性格が上がりました。A課長の価値観や考え方が変化したことがわかります。

A課長半年後

支援をはじめてから、半年ほどかかりましたが、このようにパワハラを改善することができました。という事例でした。